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後戻りすることのないクリーンエネルギーへの気運 by Barack Obama

 

The irreversible momentum of clean energy

バラク・オバマ

米国大統領、米国ワシントンDC 20500

Email:press@who.eop.gov 2017年1月20日以降:contact@obamaoffice44.org

民間セクターの取組みが後押しする排出量と経済成長のデカップリング(切り離し)

人間の活動に伴って二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス(GHG)が放出された結果、世界の平均地表気温は上昇し、気象パターンは乱れ、海洋は酸性化している(1)。このまま放置すれば、GHG排出量は増え続け、その結果として地球の平均気温が2100年までにさらに4℃以上上昇し、多くの内陸部や極北地域ではその1.5から2倍も上昇する可能性がある(1)。気候変動の影響については、次第に嫌というほど明確に理解されるようになって来ているが、米国が取るべき政策方針については依然として議論が続いている――この議論は現在の大統領移行期に入って非常に顕著になっている。しかし、当面の政治問題はさておき、経済的・科学的な証拠が続々と明らかになっていることから、私の在任中に出現したクリーンエネルギー経済へ向かう流れは継続し、米国がこの流れを利用する経済機会は増える一方だと私は確信している。このPolicy Forumでは、クリーンエネルギーへの流れが後戻りすることはないと私が信じる4つの理由を挙げていく。

経済成長、排出量減少 

米国はGHG排出量の軽減が経済成長と両立し得ることを、身をもって示している。それどころか、効率や生産性や改革を促進することも可能である。

2008年以降、米国では史上初となる、急速なGHG排出量削減と経済成長とが同時に実現する時期が続いている。具体的に言うと、エネルギー業界からのCO2排出量が2008年から2015年の間に9.5%減少した一方で、経済は10%以上成長した。これと同時期に、実質国内総生産(GDP)1ドルあたりの消費エネルギー量は約11%減少し、消費エネルギー単位あたりのCO2排出量は8%減少、GDP1ドルあたりのCO2排出量は18%減少した(2)。

こうした流れの重要性を軽視することはできない。エネルギー業界の排出量と経済成長が「デカップリング(切り離し)」されたことから、気候変動対策のためには経済成長および生活水準の低下に甘んじなければならない、という議論に終止符を打つべきである。事実、このデカップリングは米国で最も顕著だが、経済が成長しても排出量は増えないという証拠は世界中で明らかになっている。国際エネルギー機関(IEA)が発表した2015年のエネルギー業界によるCO2排出量の暫定推定値を見ると、排出量は前年比で横ばいだったのに対し、世界経済は成長している(3)。IEAは「過去40年間でCO2排出量が前年比で横ばいあるいは減少したのはわずか4回しかなく、そのうち3回――1980年代初期、1992年、2009年――は世界経済が低迷していた時期と重なる。これに対して、最近見られる排出量増加の停止は、経済成長の時期に起こっている」と指摘している。

同時に、炭素汚染を無視した経済戦略を取れば世界経済に多大な負担を強いることになり、その結果として長期にわたり雇用が減って経済成長が鈍ることになる、という証拠が続々と明らかになっている。産業革命前の気温と比べて4℃温暖化した場合の経済的損失は、2100年までに年間GDPの1%から5%に達すると推定されている(4)。最も頻繁に引用される経済モデルのひとつでは、4℃の温暖化による年間損失を世界のGDPの約4%と推定しており(4-6)、その場合、米国の歳入は年間およそ3,400億ドルから6,900億ドル減少する可能性がある(7)。

しかも、これらの推定ではGHGの増加が大惨事を引き起こす可能性は考慮されていない。大惨事の例としては、グリーンランド氷床や南極氷床の縮小が加速する、海流が急激に変化する、以前は凍っていた土壌や堆積物からGHGが大量に放出されて温暖化が急激に加速するなどがある。さらに、これらの推定では経済損失は計算に入っているものの、その根底にある経済成長率(単なるGDP値ではない)が気候変動の影響を受けるか否かという重大な問題については触れていない。したがって、これらの研究は、気候変動が世界のマクロ経済に及ぼす潜在的損失を、相当に軽視していると言えるだろう。

結果として、将来の気候や気象パターンの予測は本来不確実なものではあるが、排出量削減――および、もはや避けられない気候変動からの回復力や準備態勢の向上――に必要な投資は、気候変動による損失回避で得られる利益と比べれば大した額ではないことが、次第に明らかになりつつある。つまり今後数年にわたり、州政府や地方自治体や企業は、こうした重要な投資を続ける必要があり、それに加えて、納税者や自宅所有者や株主や顧客に対して、気候変動リスクを認知させるための良識ある対策を講じる必要もある。世界中の保険・再保険事業者は、分析モデルを介して気候変動リスクの増大が自明となっているため、すでにこうした対策を講じている。

民間セクターによる排出量削減 

マクロ経済だけでなく企業も、排出量削減は環境保全だけでなく経済効果があるという結論に至っている――削減によって収益は上がり、顧客にかかるコストは下がり、株主へ利益を還元できる。

おそらく最も説得力のある事例が省エネルギーだろう。政府はこの種の投資や改革を奨励する役割を果たしてきた。私の政権で導入した(i)燃費基準は、純便益をもたらすものであり、2012から2029年の間に販売された新車の生涯寿命間に80億トン以上の炭素汚染を削減できると予測され(10)、また、(ii)44の家電製品基準と新たな建築基準は、2030年までに24億トンの炭素汚染を削減するとともに、顧客にとっては5,500億ドルの節約になると予測されている(11)。

しかし突き詰めれば、こうした投資を行っているのは、エネルギーの無駄をなくすことでコストを削減して他分野事業へ投資しようと決めた企業である。たとえば、アルコア社はGHG排出原単位を、2005年を基準として2020年までに30%削減する目標を設定しており、またゼネラルモーターズ社は施設のエネルギー原単位を、2011年を基準として同期間中に20%削減しようと取り組んでいる(12)。こうした投資が一因となって、前述のようなことが経済界全体で行われている。2015年の総エネルギー消費量は2008年よりも2.5%少なかった一方で、経済は10%成長した(2)。

企業によるこうした意思決定によってコストが削減できるだけでなく、高給な雇用の創出につながる可能性もある。今週発表された米国エネルギー省の報告書では、現在約220万人の米国人が、省エネルギー関連製品およびサービスの設計、設置、製造に従事している。これに対し、約110万人の米国人が発電を目的とした化石燃料の生産や使用に従事している(13)。エネルギーの無駄をなくすことでコスト削減を企業に促す政策の継続は、大量雇用という利益を生む可能性があり、また、連邦政府による年間50億ドル近い化石燃料補助金を続けるよりも、強力な経済論理に基づいたものと言える。化石燃料補助金は市場にひずみをもたらすものであり、補助金自体を是正するか、もしくは法人税制改革との関連において是正するべきである(14)。

電力業界における市場の力 

米国の電力業界――米国経済最大のGHG排出源――で進められている変革は、市場力学によるところが大きい。2008年には天然ガスが米国の発電に占める割合は約21%だった。今日では約33%を占めており、この増加は排出量の多い石炭から排出量の少ない天然ガスへの移行に起因すると見てほぼ間違いなく、これは主に、新しい生産技術によって低コストでガスが入手可能になったおかげである(2、15)。天然ガスを使った新しい発電にかかるコストは、石炭と比べて低くて済むと予測されるため、連邦政府政策が近々どのように変わろうとも、公益企業が方針を変えて、天然ガス発電所よりも費用のかかる石炭火力発電所を建設するとは考えにくい。天然ガス生産に伴うメタン排出は深刻な問題だが、企業は私の政権が導入した基準に沿って、無駄をなくす対策を導入しようとする経済的動機を長期にわたり有しており、また州政府は、近々の連邦政府政策がどうなるとしても、この問題の解決へ向けて重要な前進を続けていくだろう。

再生可能電力の発電コストも2008から2015年の間に激減している。風力発電では41%、屋上太陽光発電(PV)では54%、発電所規模のPVでは64%の発電コストが減少した(16)。ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスによると、2015年はクリーンエネルギーへの投資が過去最高を記録し、こうしたエネルギー源が世界中から引き寄せた資本は化石燃料の2倍だったという(17)。

公共政策――再生法による投資から最近の税額控除拡大に至るまで――は極めて重要な役割を果たして来たが、技術の進歩と市場の力による再生可能エネルギーの導入促進は今後も続くだろう。米国の一部地域では、風力や太陽光といった新しい再生可能エネルギーの均等化発電原価が、再生可能エネルギーへの補助金を算入しない場合でも、新規の石炭発電よりもすでに低くなっている(2)。

これを受けて、米国企業は再生可能エネルギー源の利用へ向けて動き出している。たとえばグーグルは先月、2017年には事業で使用する電力の100%を再生可能エネルギーで賄う予定だと発表した――主に再生可能エネルギーを直接購入する大型長期契約によって実現するという(18)。米国小売業最大手のウォルマートは、今後数年のうちに使用エネルギーの100%を再生可能エネルギーにする目標を設定している(19)。また経済界全体を見ると、太陽光発電や風力発電の企業で現在就業中の米国人は36万人以上で、対して石炭による発電やサポートに従事する米国人は約16万人である(13)。

市場の力だけでなく、州レベルの政策によってもクリーンエネルギーへの気運は高まり続けるだろう。米国人口の40%を占める州が、クリーンエネルギー計画を引き続き推し進めており、それ以外の州でも、クリーンエネルギーの利用が拡大している。たとえば、テキサス州では風力発電だけで2015年の電力生産の12%を占め、2015年の一時期に40%を超えた。また、アイオワ州でも風力発電が2015年の総電力生産の32%を占め、2008年の8%(他のどの州よりも高い割合だった)から増加した(15、20)。

世界的な気運 

米国以外の国々やその企業も前進を続けており、クリーンエネルギーを巡るレースの先頭に立つことで自国のために利益を得ようとしている。だが、ずっとこうだったわけではない。少し前までは、ごく少数の経済先進諸国だけがGHG排出削減に責任があり、気候変動対策に貢献すべきだと、多くの人が考えていた。しかし、パリ協定において参加国は、すべての国が野心的な気候政策を活発に提案し、一貫した透明性や説明責任といった要件を満たすべきであるという合意に達した。これは外交の根本にかかわる状況変化であり、すでにかなりの利益を生んでいる。パリ協定は採択から1年足らずで発効され、マラケシュで今年の秋に開催されたフォローアップ会議では、すでにパリ協定に参加している、世界全体の排出量の75%以上を占める110カ国以上が、気候行動への「気運が後戻りすることはない」という点で合意した(21)。

パリ協定の理念を実現するには何十年にもわたる実質的な行動が必要となるが、国別の貢献を分析したところ、各国が中期目標を達成して今後数年でさらに野心的になれば――それに加えて、クリーンエネルギー技術への投資が拡大すれば――、国際社会が温暖化を2℃未満に抑えられる確率は50%も高くなることが示唆された(22)。

もし米国がパリ協定を離脱すれば、他の国々に対して公約を遵守させ、透明性を要求し、意欲を促すための場を失うことになるだろう。だからといって、次期政権も私の政権とまったく同じ国内政策を取る必要はない。この国がパリ協定で採択した目標を――効率面および経済面で――達成するための道筋や方法はいくつもある。パリ協定そのものは各国が独自で決定した枠組みに基づいており、各国で自国の公約設定とその見直しを行っている。米国の国内政策がどうであれ、世界の排出量の3分の2を占める国々――中国、インド、メキシコ、欧州連合加盟国など――に説明責任を追及する機会を手放せば、米国の経済的利益は徐々に失われるだろう。

これを党派間の対立問題にすべきではない。良質な企業や良質な経済が技術革新をリードし、市場動向を決めるのである。また、排出削減の長期目標を設定して、米国の企業、起業家、投資家が確信を持って投資できるようにし、国内使用および海外輸出できる排出削減技術を作り出すことは、賢明な計画である。だからこそ、数百社に及ぶ大手企業――エクソンモービルやシェル、デュポンやリオ ティント、バークシャー・ハサウェイ・エネルギー、カルパイン、パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック・カンパニーといったエネルギー関連企業など――は、パリ協定を支持しているのであり、また有力な投資家は、さらに野心的なエネルギー計画さえも可能にするようなクリーンエネルギーの進展を支えるために、寛容な民間資本に10億ドルを投入しているのである。

結論 

以前から知られていることだが、大量の科学的記録からわかるように、気候変動の緩和に向けた行動が急務であることは紛れもない事実であり、無視はできない。ここ数年は、行動することの有利性――および行動しないことの不利性――を示す経済事例も同様に明らかになっており、またクリーンエネルギーの有利性を示すビジネス事例も増えつつあり、近々の連邦政府政策がどうなっても、よりクリーンな電力業界に向けた流れが持続可能であることもわかってきた。

米国は政策の先行きが不透明な状況に直面しているが、それでも私は、気候変動に立ち向かって低炭素の未来から経済的恩恵を受けるのにふさわしい国は、米国をおいて他にないと確信しており、パリ協定のプロセスに継続して参加することで、国際社会だけでなく米国民にも大きな利益をもたらすと確信している。今後数十年にわたって米国が賢明な政策を取るならば、数ある行動のなかでも優占すべきは、米国のエネルギーシステムからの炭素除去と、米国国土内における炭素の貯留および排出量の削減、非CO2排出量の削減だろう(23)。

もちろん、米国の統治機構の持つ大きな利点のひとつが、各大統領が独自の政策路線を決められることである。そして、ドナルド・トランプ次期大統領にはそれを行う機会がある。最新の科学や経済は、多くの場合、近々の政策選択がどうであれ、気候変動との闘いとクリーンエネルギー経済への移行に関しては、将来への有益な道しるべを提供してくれるのである。

REFERENCES AND NOTES

1. T. F. Stocker et al., in Climate Change 2013: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change, T. F. Stocker et al., Eds. (Cambridge Univ. Press, New York, 2013), pp. 33–115.

2. Council of Economic Advisers, in “Economic report of the President” (Council of Economic Advisers, White House, Washington, DC, 2017), pp. 423–484; http://bit.ly/2ibrgt9.

3. International Energy Agency, “World energy outlook 2016” (International Energy Agency, Paris, 2016).

4. W. Nordhaus, The Climate Casino: Risk, Uncertainty, and Economics for a Warming World (Yale Univ. Press, New Haven, CT, 2013).

5. W. Nordhaus, DICE-2016R model (Yale Univ., New Haven, CT, 2016); http://bit.ly/2iJ9OQn.

6. The result for 4°C of warming cited here from DICE-2016R (in which this degree of warming is reached between 2095 and 2100 without further mitigation) is consistent with that reported from the DICE-2013R model in (5), Fig. 22, p. 140.

7. U.S. Office of Management and Budget, Climate Change: The Fiscal Risks Facing the Federal Government (OMB, Washington, DC, 2016); http://bit.ly/2ibxJo1.

8. M. Burke, S. M. Hsiang, E. Miguel, Nature 527, 235 (2015). doi:10.1038/nature15725 Medline

9. M. Dell, B. F. Jones, B. A. Olken, Am. Econ. J. Macroecon. 4, 66 (2012). doi:10.1257/mac.4.3.66

10. U.S. Environmental Protection Agency, U.S. Department of Transportation, “Greenhouse gas emissions and fuel efficiency standards for medium- and heavy-duty engines and vehicles—Phase 2: Final rule” (EPA and DOT, Washington, DC. 2016), table 5-40, pp. 5-5–5-42.

11. DOE, Appliance and Equipment Standards Program (Office of Energy Efficiency and Renewable Energy, DOE, 2016); http://bit.ly/2iEHwebsite.

12. The White House, “Fact Sheet: White House announces commitments to the American Business Act on Climate Pledge” (White House, Washington, DC, 2015); http://bit.ly/2iBxWHouse.

13. BW Research Partnership, U.S. Energy and Employment Report (DOE, Washington, DC, 2017).

14. U.S. Department of the Treasury, “United States—Progress report on fossil fuel subsidies” (Treasury, Washington, DC, 2014); www.treasury.gov.

15. U.S. Energy Information Administration, “Monthly Energy Review, November 2016” (EIA, Washington, DC, 2015); http://bit.ly/2iQjPbD.

16. DOE, Revolution…Now: The Future Arrives for Five Clean Energy Technologies—2016 Update (DOE, Washington, DC, 2016); http://bit.ly/2hTv1WG.

17. A. McCrone, Ed., Clean Energy Investment: By the Numbers—End of Year 2015 (Bloomberg, New York, 2015); http://bloom.bg/2jaz4zG.

18. U. Hölzle, “We’re set to reach 100% renewable energy—and it’s just the beginning” (Google, 2016); http://bit.ly/2hTEbSR.

19. Walmart, Walmart’s Approach to Renewable Energy (Walmart, 2014); http://bit.ly/2j5A_PDF.

20. R. Fares, “Texas sets all-time wind energy record” [blog]. Sci. Am., 14 January 2016; http://bit.ly/2iBj9Jq.

21. United Nations Framework Convention on Climate Change, Marrakech Action Proclamation for our Climate and Sustainable Development (UNFCCC, 2016); http://bit.ly/2iQnUNFCCC.

22. A. A. Fawcett et al., Science 350, 1168 (2015). doi:10.1126/science.aad5761 Medline

23. The White House, United States Mid-Century Strategy for Deep Decarbonization (White House, Washington, DC, 2016); http://bit.ly/2hRSWhiteHouse.

謝辞

B. Deese、J. Holdren、S. Murray、D. Hornungには、本論文の調査、起草、編集に協力いただいた。